稲生一平のページ
硯箱
今年もCOP28が始まった。会議の中味はさておいても、
大層な話から突然微細なテーマだが、
ずいぶん昔に、
この仕事を喜んでお受けしたのは、まず墨を摺り、
そうなると、我流だが書道も楽しむ身としては、
ふと思い立って、保存していた硯箱を出してきたのだが、
もっと喜びを届けたい
「木の器・漆の器 2023」展が無事スタートした。
食は命の源であり、日々の元気の源である。そして器は必須の道具である。
どうせ食べるなら楽しく、美味しいに越したことはない。あえて一言添えるならば、決して美味しいイコール贅沢ではない。
無論美味しいというのは味覚の問題だが、長年食器を作り続けるうちに気づくことがある。食事とは文字通り食べる事だが、人は味覚もさることながら心で食べているような気がする。一人を楽しむ食事も、いい仲間といい話をしながら楽しむ食事なども間違いなく心の栄養になる。食事は体だけではなく、心の健康にも大切な役割を担っているのにちがいない。
そんな食事に、器はとても大きな役割をはたすものだ。だから、作り手の私はいつも幸せな食卓での美味しく楽しい食事を願いながらものづくりに励んでいる。
まだ陶器づくりを続けているが、木の器、漆の器に軸足を移しつつある。ずいぶんと昔から、木の器への関心は持ち続けてきた。
陶磁器より人にやさしく、壊れにくく、軽い。そして今では、最も地球にやさしい最先端の器であると思っている。数ある特徴の中でも、高齢者にとって軽いというのは正義だし、なんとなく不注意が増える年頃にとって壊れにくいというのも捨て難い魅力である。
お陰様で今回の展覧会も初日から多くのお客様にご来場いただき、想像以上の沢山の器が旅立った。一所懸命に作ったものとて決して完璧なものではない、みなさんのお手元で喜んでいただけるかという不安はいつもある。
私たちの器を手にしていただいた方々の食卓がより楽しく、喜びに満ちたものであってほしいと心から願っている。
心からの感謝とともに。
「木の器・漆の器 2023」展 和田塚 鎌倉彫工芸館にて27日(月)まで開催中
「木の器展」プレビュー
七寸のお皿
業界では何故か七寸というのだが、直径約21センチということだ。
色々と作ってみたり、使ってみたりする中で、最も使いやすいサイズだと思っている。
大きすぎず、小さすぎず、ほどよい大きさは食卓でも収まりが良い。万能皿かもしれない。朝はパン皿、昼にはちょっとした副菜やサラダ、お茶の時間には黒の七寸がケーキをとても美味しそうに見せてくれる、晩のおかずにはなんでも使える、デザートのフルーツもよく似合う。
今回は同じ七寸の木皿を三種類の仕上げで用意した。一つは黒の漆で仕上げた物。これはまず木地をタンニン染で墨色に染めて、摺漆で仕上げていくのだが、すべてのプロセスで研ぎをしながら進むので、それなりの根気仕事である。
二番目は、上記の最初の墨染の工程をせずに、木地に直接摺漆を重ねていく手法で仕上げたもの、漆独特の透明な色合いが美しい。三番目は、木地をオイルフィニッシュで仕上げたものだが、オイルと一言でいっても、最初の木地調整から塗るたびに研磨を重ねて仕上げている。こちらは、赤ちゃんでも大丈夫というドイツ製のオイルを二種使っている。
ともかく気軽に、気楽に使いたいという方はオイルがおすすめ、ただし色が褪せてきたらオイルで拭いてやるという手間が必要だ。木が好きな人には使えば使うほど変化していく風合いがなんとも魅力である。漆の利点はオイルとは比較にならぬほどの耐水性や強靭な塗膜であろう、漆のテクスチャーもなかなか魅力的だと思う。
「木の器」展のDMができました。お立ち寄りいただけると嬉しいです。
今年も11月23日から和田塚駅の近くの鎌倉彫工芸館で開催され
詳しくは添付のフライヤーをご参照ください。
三人展といっても、お二人はこの道半世紀という方々で、
不肖の弟子に暖かい声をかけていただいての参加です。
ご興味のある方は是非お立ち寄りください。
見習いの身の私は会期中通して会場でお待ちしています。
木の器作ってます
木の器といっても千差万別。作りっぱなしのものから漆で丁寧に仕上げたものまで本当に沢山の商品、作品がある。
作る方法も様々で、私の師匠の遠藤英明さんのように、匠の技で木片から皿を削り出す人もいるが、丸い皿や椀は仕様を決めて木地師に依頼するのが大半だろう。
写真はただいま製作中のパン皿だが、大きさは直径21センチ、パン皿と称しているがパンに限ったものではなく、とても使いやすいサイズなのでお惣菜からケーキまでなんでも使える。
「製作中」と書いたが、通常作るというのは形の無いものから形をつくり出すことを言う。形のあるものから作るのは、組み立てるという。私はそう思っている。
この皿はというと、まず形を決める。使い勝手、厚さ、深さ、重ねた収納、もちろん見た目の美しさなどを考慮することは申すまでもない。そのいわばイメージから皿の正確な断面図を描く。そして、素材を指定して木地師に制作を依頼する。だから正確に言えば、すくなくとも木地の制作は木地師であって私ではない。
だとすれば、あとはでき上がったものに塗装をするだけか、と問われれば、その通りなのだが、そう簡単なものでもない。
まず木地をできるだけ滑らかに仕上げなければならない。特に漆の場合は、ここで手を抜くと後悔先に立たずということになる。それから漆でも、オイル仕上げでも、塗っては乾燥させ、そして研ぎ、というプロセスの繰り返しの日々を経て完成する。
この皿ではないが、昨日午前中に木地の仕上げをしたが、なんと4枚しか仕上げることができなかった。とても若者のようなテンポは無理としても、これを生業としていたら、飯の食い上げである。
幸いに私にとっては余業だが、そうは言っても使い手が喜んで、楽しく使っていただける器を目指してどう仕上げていくか、手仕事の日々が続いている。
稲生一平 イノオ イッペイ 1942年、藤沢市生まれ
グループには、2019年より参加。日本の伝統工芸が好き、日本の手仕事が好き、その繊細さと美しさは、世界に類例のない日本の文化です。ある時は美しい作品を購入するお客として、ある時はアドバイザーとして、ある時は商品開発の提案者として、又ある時は展覧会のプロデューサーとして、日本の手仕事の危機を、二十数年にわたり訴え続けてきました。